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「ここも空き家、ここも…」 災害と過疎、相次ぐ転出

泥がこびりついた空き家が並び、閑散とする新町地区(福知山市大江町河守)
泥がこびりついた空き家が並び、閑散とする新町地区(福知山市大江町河守)

 「ここも空き家、ここも、ここも…」。住宅地図を指でなぞりながら、自治会長の溝谷仁司さん(67)はやりきれない表情を浮かべた。西日本豪雨で一帯が浸水した福知山市大江町で、33世帯が暮らす新町地区。30年ほど前は民家や商店がずらりと並び、子どもの声も響いていたが、水害のたびに転出が相次ぎ、ここ数年で世帯数は半減。小中学生は1人もいなくなった。道沿いには窓ガラスが割れ土砂が積もったままの空き家や、雑草が生い茂る更地が目立つ。

 被災から3カ月。町には豪雨の爪痕が刻まれたままだ。特に被害が大きかったのは、生活拠点が集まる町の中心部。市役所大江支所や図書館、子育て支援センターなどが入っていた建物1階は、床板が波打ち無人の状態が続く。周辺では町唯一だった総合スーパーをはじめ、長年住民の憩いの場となっていた食堂や喫茶店も、閉業を余儀なくされた。

 新町地区の隣、57世帯が住む蓼原地区でも、豪雨を機に30代の夫妻と小学生の一家が転出していった。過疎高齢化が進む蓼原自治会では、役員の負担を減らして後継者を確保しようと、運営の見直しを始めている。会長の桐村和憲さん(49)は「災害時に行政と連絡を取り合う自治会の役割は大きい。人が増えることが望めないなら、時代にあった自治会を考えていかなければ」と語る。

 同町はこの5年で計4回もの浸水被害を受けてきた。その間に、約4930人いた人口は540人減り、高齢化率は4割超に。移住促進を目的とした町内3カ所の公営住宅は、2年前に家賃を3割下げたにも関わらず、入居率は半分にも満たない。3年後には3小学校の統合も控える。

 若者が減り、日常生活すらままならない古里の姿に、住民たちは不安と寂しさを募らせる。2年前に設立された住民団体「大江まちづくり住民協議会」は、地域活性化を目指しテナガエビの養殖などに取り組んできたが、被災以降、活動はほぼ休止している。平野伸次事務局長(66)は「水害で、活動と住民の気持ちがかけ離れてしまった。こんな大変な時に何を活性化するんやと。会員も被災し、活動の意義を見失っている」と肩を落とす。

 小雨が降る10月上旬。傘をさした主婦たちが、蓼原の公会堂前に止まった移動販売車を取り囲んだ。「つくだ煮あるかいね」「白菜が欲しいんやけど」。水害後の静かな町中で、生活のともしびに吸い寄せられるように、ひととき集う。買い物に訪れた主婦(71)は「スーパーすら無くなってしまうなんて。あと10歳若かったら町を出ていた」と漏らした。

 <連載 豪雨の教訓 京都府北部の現場5> 7月、西日本豪雨が京都府を襲った。記録的な雨は山を崩し、川を氾濫させ、5人の命と多くの人の暮らしを奪った。豪雨が私たちに突きつけた教訓とは何だったか。府北部の現場を検証する。

【 2018年11月01日 08時51分 】

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