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穴太衆の石積み、最新技術に勝る 鎌倉期の技術、公共工事も採用

野面積みと切り込み継ぎの断面図
野面積みと切り込み継ぎの断面図

 比叡山の麓にある大津市穴太(あのう)地区で戦国時代に栄え、全国の城の石垣に使われた石積みの伝統工法「穴太衆積み」。自然に近い状態の石を、コンクリートなどで固定するのではなく、積み上げるだけで高い耐久性を実現する技術が「驚くべき技だ」と評価されている。国内では戦国時代から江戸時代初期に一国一城令が出るまで、巨大で華麗な城が次々と造られた。寺院建築などで培われた穴太衆などの石積みの技術力が、当時の築城を支えたのだろう。現在、彦根城や熊本城、「天空の城」ともいわれる竹田城跡の天守や堀の石垣の修復に、穴太衆積みの技術が欠かせないといわれる。その技術力の一端に迫った。

 ■熊本地震でも大きな崩落なく

 「14代目穴太衆頭(かしら)」の粟田純司さん(78)=大津市=によると、穴太衆積みの主な特徴は、自然石(野面(のづら)石)と、一部で石山から切り出した粗割(あらわり)石の使用▽長い奥行き▽水圧や土圧を軽減するために石垣の裏側に、グリ石と呼ばれる小さな石を敷き詰める―などが挙げられる。これらの技術は鎌倉時代に確立されたとされ、現在も基本的な部分は変わらない。

 ただ、時代と共に積む石が変わった。加工しない石を使う「野面積み」から、表面に出る石の角や面を平たくし石同士の隙間を減らした「打ち込み接(は)ぎ」、方形に加工した石材を密着させる「切り込み接ぎ」へと変遷した。

 粟田さんは「石材加工の技術が発達していくほど強度はむしろ弱くなった」と明かす。野面積みは石垣表面より5~7センチ奥で接するため安定する。一方、切り込み接ぎは石の奥行きが短く、石同士が石垣の表面で接するため、石が飛び出したり内側に陥没したりしやすいという。

 穴太衆積みの技術力は、最新の土木技術にも引けを取らないことが証明されている。

 2008年、甲賀市にある新名神高速道路脇の遊歩道の壁の工法を巡り、穴太積みとコンクリートブロック壁のどちらを採用するかを決めるため、耐久実験が行われた。高さ3・5メートル、幅8メートルの石積みとコンクリート壁を比較。230トンの圧力をかけたブロック壁は崩れそうになったが、石垣は250トンでも持ちこたえ、採用された。

 16年4月の熊本地震で熊本城の正門や天守閣入り口付近の石垣の一部が崩れた。熊本城総合事務所によると、築城当初の石垣に大きな崩落はなく、1889(明治22)年に陸軍が主導し修復した部分が崩れ、大きな被害が出たという。

 修復に関して純司さんにアドバイスを求めた、熊本地震復旧復興事業協同組合の後藤栄雄代表理事は「県の象徴である熊本城の修復は誰にでも任せられるものじゃない。再び崩れないためにも、日本の石垣の先駆者である粟田さんの技術は、復興に不可欠です」と信頼を寄せる。

 ■「延暦寺の石積みを経て発展」

 石垣といえば、一番に思い浮かべるのは城の石垣だろう。しかし、穴太衆の石垣を積む技術は、そもそも寺院とともに発展してきたという。滋賀県立大の中井均教授(考古学)に、穴太の石積みの歴史を聞いた。

 鎌倉時代後期あるいは南北朝時代から、比叡山の東麓に位置する穴太地域の石を加工したり組み立てたりする石工たちは、延暦寺の石積みや側溝などの工事、石仏や五輪塔を造る役割を集団で担っていた。険しい山の斜面にお堂を建造するためには、基礎が崩れないように頑丈な石垣で土留めする必要があった。比叡山で石垣作りの技術が培われたのだろう。

 織田信長の時代、現在の大津市坂本から滋賀里にいたる地域に約300人の石工が集まっていたといわれるが、安土城の石垣を穴太の石工だけが積んだと考えるのは早計だ。

 最新の調査によると、安土城よりも前に信長が築城を命じた小牧山城(愛知県小牧市)と岐阜城(岐阜市)でも石垣が見つかった。特に、岐阜城には巨石を用いている。信長の側近太田牛一が記した「信長公記(しんちょうこうき)」には、安土城築城に際し石奉行は「西尾義次、小沢六郎三郎、吉田平内、大西某」とあり、小牧や岐阜から連れてきた石工の可能性が高い。安土城跡で見つかった石垣の構造はさまざまで、穴太の石工は他の石工と共に築城に関わったと考えるのが妥当だ。

 戦国時代の古文書に石工のことを指して「穴太」という記述がある。穴太に住む石工というよりも、石垣を作る職人で、近江出身でなくても石工のことを指す普通名詞になったのだろう。近世以降に建てられた多くの城に「穴太」が関わった。関ケ原の戦い以後の築城ラッシュで重宝されたのは間違いない。

【 2019年03月07日 11時05分 】

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