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社説:世界遺産登録へ 古墳群保全の出発点に

 大阪府の「仁徳天皇陵古墳」(大山(だいせん)古墳)を含む「百(も)舌鳥(ず)・古市古墳群」の世界文化遺産登録が確実となった。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関が勧告したためで、文化的価値が世界に共有されることを喜びたい。

 だが世界遺産の目的は観光振興ではなく、人類の遺産の保全である。勧告は住宅が密集した古墳群の周辺環境に触れ「都市における開発圧力」が懸念されると指摘した。景観や環境をどう守っていくか、登録を終着点ではなく保全の出発点としなければならない。

 対象の古墳群は、古代王権の形成期に当たる4世紀後半から5世紀後半までに築造された49基。大規模な前方後円墳から数十メートル規模の円墳や方墳まで、大きさも形も多彩だ。さまざまな墳墓が集中して残る世界的にもまれな事例として「傑出」した歴史的価値が認められたと言えよう。

 墳丘の長さ486メートルで「世界最大級の墳墓」とも呼ばれる仁徳天皇陵古墳などで知られつつも登録推薦が過去3度見送られ、近畿で唯一、世界遺産がなかった大阪府にとって悲願だった。地元関係者の喜びもひとしおであろう。

 6月末からアゼルバイジャンで開かれるユネスコ世界遺産委員会で正式に決まる見通しだ。登録されれば、国内では23件目、文化遺産としては19件目となる。

 ただ課題は多い。

 天皇や皇族が葬られた「陵墓」が登録されるのは初めてで、対象古墳のうち29基を占める。宮内庁が管理し、文化財保護法に基づく国史跡に指定されず、考古学関係者の立ち入りさえ厳しく制限してきた。厳格な管理が保全に役立った一方、学術調査は進まず、今後は保存・修復や公開性などで宮内庁の協力が欠かせない。

 加えて仁徳天皇陵古墳など一部の名称を巡り、考古学的な考察が不十分で被葬者が特定できていないとして、日本考古学協会などに異論もある。世界遺産登録に際しては学術的な知見を基にした名称を優先すべきではないか。

 古墳群は住宅密集地に点在し、大規模商業施設などの計画が浮上した際にどう対応すべきか。周辺開発の影響を予測し、速やかに対応を講じる仕組みが欠かせない。

 世界遺産登録に伴って、観光客が急増してトラブルが起きる恐れもある。あらかじめ対策を考えておきたい。往々にして文化保護と観光開発は相反しがちだが、世界遺産の保全と活用もバランスをいかに調整するかが肝要である。

【 2019年05月16日 10時29分 】

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