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野依氏「ラグビーと科学、ともに自分自身が頼り」 【全文】②

野依良治さん
野依良治さん

 ノーベル受賞者の野依良治さん(81)インタビュー全文続き②

【独創性の大切さ】

 科学とラグビーは目的が相当違うが、共通するところは「自分自身が頼りである」ということ。言い訳は通じません。そして科学もラグビーも世界の全ての人に開けている。研究者であれラグビー選手であれ、本当の名手は世界のどこかで活躍の場がある。どこの組織に行かなければできないというわけじゃない。認められるかどうかは良い研究、良いプレーをするかしないか次第です。成功する人にはハングリー精神がある。才能さえあれば1人で生きていけます。国籍も経済力も関係ない。そういう意味で単純。易しくはないけど、極めて単純です。

 自然科学の本質は知識を創造することです。しかし創造は合理的な思考だけでは無理です。易しくいうと「幸運を呼び込む能力」が必要。有名大学で講義を受け、図書館やインターネットで勉強したりして物事を合理的に考えるのはいいが、それだけでは大きな発見は生まれない。ラグビーを愛する山中伸弥さんが「運よく」iPS細胞を見つけましたが、その発見のために人知れず独自の準備をされているわけです。幸運の女神が贈り物を届けようとしたときに、それを逃さないで確実に受け取る。そのためにそれぞれの準備がいるわけです。一定の知性を磨かなければならないが、さらに感性が必要です。独自の技術、スキルを磨いておかないといけない。

 ラグビーでは楕円球がどう跳ねるか、ということがあります。不規則なバウンドでも、名手は常に適切にバウンドに対応するわけです。ラグビーの最も醍醐味だと思いますね。いったい、そのしなやかな機能はどこからくるのか。宿沢広朗さん(元日本代表監督)は、常にこれを念頭に置きながらプレーをした。広い社会では、不規則バウンドばかりじゃないですか。何事にも準備がいるはずです。科学そのものは自然界の統一原理に支配されていて、そこからの逸脱はあり得ない。不規則に見えるバウンドも環境のなせる業であり、必然です。察知できないが、しっかりとした力学に基づいています。大事なことは「人のせいにしないということ」。宿沢さんは相当の可能性の幅を見て、100パーセントとはいかなくても、臨機応変に対応する準備をされていたと思う。名ラガーマンの宿沢さんは、三井住友銀行の役員としても同様の手腕を発揮された。社会における準備は人それぞれ。先生は教えてくれない。私たちは「自学自習」と言っています。

 独創的な科学者の特徴を挙げておくと、決して要領のいい人じゃない。学歴は関係ないですね。若き日から自学自習、自ら考えて自ら判断するという習慣を持った人です。感性が鋭く、好奇心の強い人。それとどちらかというと反権力、反権威の人。芸術も同じで、後世に名をなす人には、アバンギャルドというか前衛派というのが多いですね。独創というのは、独りで創造的だから初めはなかなか認められない。長く孤独に耐える強い精神力、「それでもやる」という思い入れが強いですね。世の中はある程度こういう人を許容すべきです。

 スポーツにも通じるでしょうが、武者修行が大事。内弁慶は全然駄目ですね。一つの場所にとどまらないで、違ったもの、異に出会うことが気付き、ひらめきにつながり創造が生まれる。

【チームとグループ】

 自然科学を学ぶ機会は、全ての人に開かれるべきです。ところが現在の日本では、親の経済力が子どもの教育機会を決定している。これは科学技術立国にとっては大問題、非常に危機的な状況にある。物事を創造していくためには、自分自身が頼り。自分で責任を取るという覚悟を持った人がたくさんいないといけない。会社経営でものるかそるかというときにどうするか。決断する力を持った人が自分で最終判断しないといけないですね。われわれの世界も学歴だとか地位だとか些細な世事にとらわれていたら判断力が鈍る。科学以外のものが大事だと思っていては、ものにならない。

 もうひとつ。これからの科学は、個人が創造的であることも大事だが、「共創」、共に創ることが大事になってくる。もちろん優れた個人は大事だが、一般的に個人でできる能力には限界がある。だからラグビーのような団体競技に大きな意味があるんです。1人対1人のラグビーって面白くないでしょ。15人ずつでやらないと。だから個人と団体、独創と共創の両方大事なんです。

 私は日本のこれからを考えるとき、一つ大事なことを言っておきたい。団体戦に挑むには「チームプレー」が大事。決して「グループプレー」ではないんです。日本社会は民族的に均質性が高く、98%が日本民族。だからグループとチームの根本的な違いの認識がないのです。グループは正しい日本語では「群れ」。虫や魚、鳥やほ乳類など同一種の生き物の集まり。人間で言えば地縁血縁、同質の仲間たち、自然発生的な集団のことを言います。動物生態学的には、同質の集団でいることは生存の機会を高めるので良いことです。でもチームは違う。チームは明確な行動目的を持っていて、意図をしてつくられる社会的な組織を指す。ラグビーチームには勝利という目的がある。明晰な指揮官の下に、異なる専門能力の者を集めて最適な組織を人為的に作るわけです。自然に周辺の仲間が集まって発生するものじゃない。重量感あるフォワード(FW)もいるし、状況判断して俊敏に動くスクラムハーフ(SH)も、縦に抜けていく俊足のバックスもいる。こういった特色ある選手たちでチームを編成することが勝利のために不可欠。重い人、速い人だけでは勝てない。これが目的を達成するために大事な観点です。

 私は科学技術振興に関わっていますが、政府はすぐ「オールジャパン」体制というが、こんなものはもはや時代錯誤です。科学や技術には国境なんて通用しない。ナショナリズムでは勝てない。いくら東京大、京都大の学生が優秀でも、画一性の高い教育を受けた日本人を集めただけでは、できることは極めて限定的です。先ほど言ったように共創の時代に入っている。科学や技術の研究は、綱引き競技ではなく、世界の特色ある技能や知能を持った者を集積することが必要。科学立国、科学技術立国を名乗っている国は死にものぐるいで世界最高の、違った職能を持つ人材を集めてチーム編成している。イノベーションで名高いシリコンバレーでも米国人だけでやっているわけではない。斬新なアイデアをもとに世界中から人を集めて最高のチームを作っている。日本は和をもって尊しとする立派な価値観を持っていて、非常に心地がいい。これは維持したい。だけど実は、科学技術などにおいては弱点になりかねない。

【 2019年09月11日 05時00分 】

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  • 野依良治さん
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