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野依氏「世界中の選手集めること不可欠。科学も同様」【全文】③

野依良治さん
野依良治さん

 ノーベル受賞者の野依良治さん(81)インタビュー全文続き③

【グローバルの時代】

 次に向かうのは「共創」の時代。ではラグビーはどうなんだと。かつての日本ラグビーはグループ同士の競い合いで、大学の早稲田や同志社、慶応や明治、社会人もそうだがグループ同士の勝負だった。それなりの意味があって、私たちの若い頃はそれに熱狂していた。だけど時代が変わって、舞台は日本国内だけでなく世界に広がった。以前は国を代表するナショナルチームによる、例えば日本人、英国人、ニュージーランド人による単純な国家同士の国際試合だった。そこから今は、国際化の時代を超えてグローバルな時代になっている。「国際(インターナショナル)」と「グローバル」は違う。国際とはそれぞれの国がアイデンティティーを持って国の際(きわ)で互いに向き合うもの。例えば日仏文化交流のように、互いに混ざって一つになるわけではなく、日本は日本、フランスはフランスの特有の文化を保つ。一方、グローバルというのは国境という概念を取り払って融合する「世界化」を意味する。今や「国力」といっても単一民族の力を指すものではありません。

 ラグビーで今、世界一を競うW杯を戦うためには、世界中からたくさんの特色ある選手を集めることが不可欠になっている。選手の生まれた国への帰属意識は薄まっていて、昔のナショナルチームではない。科学も同様です。以前は日本一であることが尊いものだった。そして戦後は国際化があり、国内における井の中の大きな蛙では駄目ということになった。日本一ではあまり意味がなくなった。さらに進んでグローバル化が進み、日本人だけでやる必要は全くない。国籍にかかわらず必要な人が集まり、一番良い技術をつくり、さらにビジネス展開するという時代になっている。ラグビーも日本代表というけど、グローバル化の中で人が集まって一番強いチームを作ることになる。これが日本国のラグビー力ということだ。

【何のためのラグビー】

 ラグビーが我が国の中核的なスポーツであり続けるためには、日本ラグビー界が世界の選手にとって魅力ある、「選ばれる存在」であることが必要だと思っている。日本ラグビー界が世界のラガーマンにとって魅力があるかどうか。世界に通じる卓越した指導者、選手を確保、育成する必要がある。その土壌を作らなければいけないと思う。私は素人で申し訳ないが、ラグビーというものが一体何のためにあるのか、というところまで問われると思っている。それは勝ち負けを競うスポーツというだけではなく、人間教育のために必要であり、社会的に貢献する人材を育成する、さらにスポーツ外交を含めて社会全体の為にラグビーがあると言わないと、なかなかW杯を超えて持続性ある支援は得られないんじゃないかと思う。社会のためのラグビー。豊かな精神性も含めて、そのための基本的な理念を描いて、着実に実践していくことが大事だろうと思う。

 口幅ったいことを言うと、ラグビー関係者だけでなく社会のさまざまなステイクホルダー(利害関係者)を巻き込んだ「日本ラグビー競技振興基本計画」みたいなものができるといい。ラグビー界には単なる継続ではなく、それぐらいの将来計画を策定する気持ちがないといけないと思う。世界を見ると、サッカー、バスケットボール、テニスの人口が多いらしいが、それなりの努力がある。これらの多くは子どもの時から競技になじんでいる。日本は楕円球になじむ子どもが少ないですね。本当はラグビーはボールを直接手で持てるんだから、どこでもできる。だからもっと広がりがあっていいのではないか。まずは人材育成の組織とか、発展性あるプログラムをつくることが先決でしょう。

 私の問いは「日本ラグビーは他のスポーツと競合、競争しながら生きるのか」、あるいは「協調しながら生きるのか」です。幼年・少年時代からの訓練も必要だが、類似の球技であるサッカーやアメフット、バスケットの経験者をもっと活用したらどうか。彼らもまたラグビーで花が開くかもしれない。競技人口が集中している野球でも、ラグビーで通用する運動神経を持った選手はいっぱいいると思う。最近、サッカー、ハンマー投げ、剣道の経験者が活躍していると聞きうれしく思ったが、私が言いたいのは、ラグビーは協会などが音頭を取ってもっと他と積極的に協調したら発展するのではないかということです。科学の世界でいうなら分野連携が必要で、昔みたいに物理学や化学、生物学など専門分野の特殊性を主張し合う時代ではなくなってきている。

【世界で戦うために】

 指導者は世界のラグビー界に通じて、広い人脈を持っていることが必要でしょう。W杯や世界のラグビー界の運営に最初から関わり合いを持っていることが必要で、積極的にそこで発言していかないといけないと思う。ラグビーもしばしばルールの変更があるが、そこに日本の提言が入っているのか。外国に都合がいいように変更されているのではないか。アウェー状態では駄目。科学の世界と同じで、若い頃から各国の将来の指導者候補者たちと寝食を共にしながら、その場に入っていく。正式な会議のテーブルじゃなくて、ビストロやすし屋で、また家庭に招き合って友好関係を築くことが大事。私たちが若い頃やっていた講道館柔道も日本発祥だが「JUDO」になり、ルールがポイント制に変わったり、道着に色を付けたりした。よい面もたくさんあるが、日本の役員不在で勝手にルールを変えられるというのは避けなければならない。そこに発言権を持ち続けないと。協会には政治経済界の実力者も必要ですが、何より現場出身の存在感あふれる人が必要。そういう意味では平尾誠二さんを失ったことは非常に残念ですね。彼は若いときからオックスフォードに留学したりして広い世界を勉強していたのでしょう。

 日本ラグビー協会もW杯招致をはじめこれまで頑張ってこられたが、体制が新しくなってさらなる期待をしています。何ごとも指導者次第で、選手だけでは成り立たない。例えばオーケストラでいえば、ソロの名手だけでなく、名指揮者が必要。さらに有能なプロデューサーが必要ですね。いくら演奏が上手でも、ちゃんと社会に売り込めないと。そういうところから総合的に基本計画を立ち上げる。これは科学技術も全く同じ事で、必ずしも産官学にわたる全体の仕組みが機能していません。長い目で見て日本ラグビーを世界的にブランド化する必要があると思います。これは日本のあらゆる部門の共通問題。世界の状況は厳しいが、甘えていたらだめ。メディア戦略も含めて、健全で適切なビジネスモデルが必要ですね。

【 2019年09月11日 05時00分 】

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  • 野依良治さん
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