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野依氏「ラグビーW杯、日本全体に誇り与えて」【全文】④

野依良治さん
野依良治さん

 ノーベル受賞者の野依良治さん(81)インタビュー全文続き④

【若者へ】

 若い人たちは、先人たちが歩んだ道を学び踏襲すればいいのではない。時代が異なるからで、自分で責任を持って自らの新しい道を切り開かないといけない。私たちの時代は敗戦後で、国の経済力は全く乏しかった。しかし若者たちはみんなそれぞれの好奇心に導かれて未知に挑戦していた。やがて経済復興もあり、そのいくつかが花開き、実を結んだというのが実情です。他の先進国と違った独創性が評価されて、いくつかのノーベル賞も生まれたということ。ノーベル賞は人と違ったことをしなければもらえません。私の場合も流行分野で世界と競争したいう思いは全くない。むしろ、自分たちが始めた課題に世界の多くの人が参入してきて、大きな分野として花開いた。私はこれが本来の科学者、大学人の生き方であると思う。自分で問題を考えられないので人のまねをする流行を追う。残念ながら、有名大学の「優秀な人」にこれが多い。時代が違う今の若い人たちに私たちの生き方をしろと言いたいのではありません。ただ、なぜ私たち世代がなぜ認められたかということを言っている。決してお金があったわけじゃない。あったものは自由だけです。今や社会のせいにして自由を放棄していないか。ここのところを考えてほしい。

【日本らしさ】

 先人たちが歩んだ道を振り返り、日本としての「伝家の宝刀」を磨き続けないと尊敬される国にはならない。「英語の世紀」と言われるが、では英語ができる国の全てがいいのか、英語を話す人はみな優れているか、そうとは限らない。少しでいいから日本人でないと絶対にできないことを磨き続けることが大事だと思う。そこで京都の役割はとても大きいですよ。このグローバル社会で個人ではなくて、日本国がいかにして生きていくのかということをもう一度真剣に考えなくてはいけない。国民が誇りを失えば国家は成り立ちません。

 大事なことは、そのために「やるべきことをやる」ということ。ところが政府は「やれることからやる」で済ましている。やれることで済ますのは、やるべきことをしないことを意味している。大競争下にある民間会社は会社ならそれでは生きていけませんね。でも日本の指導者層はやれることしかやらない責任放棄、不戦敗です。現実を直視して何をやるべきかを毅然と示すべきです。私たちの立場からいうと、天然資源のない我が国では科学技術を国力の源泉として、格段に振興すべきだと思っています。国にはそのための戦略的な政策が必要です。個人の創造性をどうやって育むか、産官学の組織はいかにあるべきか、厳しい選択を迫られています。国際比較して、一定以上の条件を満たしていかないと世界に伍していけない。でないと国力は必ず衰退する。

 日本は孤立してはなりません。これからの時代を主権国家として生きていくには、国際的な競争力を培うと共に、「協調力」を突き詰めないといけない。競争はグローバルな、おおむね画一化された環境の中で力を競うことですが、協調は自らの特色を生かして、他と相補う形でお互いのためになることをやる。決して他に依存することではない。巨竜の中国とも競争しないといけないが、中国でできない高度なことを日本がやる。ほぼ英語しか話さない米国人にできないこともたくさんある。日本人にしかできないことを積み上げて、信頼されながら相補的に生きていくことが大事。競争はごく少数の勝者と多くの敗者を生産します。協調の大事さをなぜかみんな言わないんです。社会は現存の100のシェアの力ずくの奪い合いに終始するが、全体から見れば意味をなさないのではないか。互いに協調して150以上のものを新たに創り出して、それをシェアするようにしないと駄目だと思う。そこに日本の特色が生きるはずです。

【日本ラグビーとは】

 門外漢で申し訳ないが、ラグビーもたぶん同じではないか。つまり、本当に特色ある日本ラグビーをつくらなければいけないと思います。まず重量とか筋力で勝る外国人を登用することは不可欠ですが、W杯で勝つことだけが目的ではない。その上で長期的に考えて日本らしいラグビーとは何なんだと問うてみたい。個々の選手について言えば、どういう才能を磨けば世界が認めるか。英語が席巻する時代だが、世界に通じる科学者、芸術家、文学者はいる。いったい彼らはどういう存在か。特色ある個を磨かなきゃいけない。実際に才能ある若い人は出てきている。その意味からいえば、「飛び立て日本人ラガー」ではないか。武者修行によって基本的な技能を習得しつつ、独自の特技を磨かないといけないと思う。基本的な身体能力は必要だと思うが、筋力がすべてではないと思いますね。他のスポーツを見ても体が大きい人が勝つとは限らない。ラグビーは団体競技だから「完全な機能組織性」、そして「圧倒的な正確性」。これを修練でできないですかね。パスが5センチも揺れないとか。チーム全体としてイングランド、ニュージーランド流をしのぐ、日本の組織らしい戦術、戦略を生み出さないといけないと思います。さまざまなスポーツ科学、人工知能、ビッグデータの活用、人材育成も必要です。ラグビーにおいて、本当に戦略、戦術は出尽くして新しいものはないのでしょうか。それは現在の知識ではなく、知恵の問題ではないか。10~20年先のラグビーをいち早く見抜いて、その実現を目指すことも必要でしょう。一番いけないのは、日本が負ける理由、言い訳を懸命に見つける自虐的な敗北主義者。これに陥ること。グローバルに衆知を結集して創り出すという気概が必要だと思う。若い世代に任せる勇気がいる。全く無責任な言い方で申し訳ないが、日本の科学分野の現状に照らしての感想です。

【W杯への思い】

 まずは日本チームが競技を通じて健闘することと同時に、立派な大会運営をして、日本全体に誇りを与えてほしい。最近の世界の政治や経済が揺らぐ中、日本国が健在であるということを、若い世代に勇気とともに与えるべきだと思う。同時に、この機会に日本を訪れる多くの外国人に日本の文化的な特徴と、国柄の良さを理解して帰国してもらいたい。ラグビーは国境を越える。W杯だから試合の勝敗がもちろん大事だけれど、戦いが終わったらノーサイド、これがラグビーの精神。行き過ぎたナショナリズムは避けなければならない。世界的に国家間の関係がぎくしゃくする中で、日本国民全体にボランティア活動などで友好を深めようという気持ちが大事だと思う。日本勝て、相手は憎らしい、ではなく共生を目指そう。若い人が初めて会う同世代の外国人と友好の気持ちを持つことが大事で、スポーツ全体の活性化、国全体のグローバル化にも通じるのではないか。科学のための科学、日本のための科学とばかり言っているようでは広がりを欠くのと同じで、勝ち負けに一喜一憂だけでは国民の理解、支援は得られないと思うのです。

【 2019年09月11日 05時00分 】

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  • 野依良治さん
岸田繁 交響曲第一番・第二番 連続演奏会 2019.10.5

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