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「監督に言われ」鉄剤注射も 陸上長距離・不適切使用に警鐘

鉄剤注射について注意を呼びかかる日本陸連のリーフレット
鉄剤注射について注意を呼びかかる日本陸連のリーフレット

 高校2年の夏が始まりだった。「注射をしてみなさい」。監督にそう促され、元実業団選手の30代男性は鉄剤注射を打った。当時、貧血症状はなかったが血液中のヘモグロビン濃度は正常値より低かった。男性は「監督に言われ、何の疑問もなかった」と振り返る。

 男性は全国高校駅伝に複数回出場している西日本の高校出身。鉄剤注射との因果関係は不明だが、高校3年で5000メートルの記録が伸び、全国大会に出場できた。一方、食事の時間が嫌になるほど食欲がなくなった。それでも卒業するまで病院に通い、血の色に似た鉄剤注射を打ち続けた。「弊害を知ったのは社会人になってからだった」と語る。

 鉄剤注射は鉄分不足による極度の貧血の治療に使用される。ドーピングにはならないが、女子の長距離選手を中心に血中で酸素を運ぶヘモグロビンを増やして持久力を高めることを期待して不適切に使われる例があり、日本陸連は2016年、安易に使用しないよう警告した。

 だが、一部の高校で不適切な鉄剤注射が続いていることが指摘され、これまで現場任せだった日本陸連は昨年末、選手への鉄剤注射の原則禁止を表明。今年の全国高校駅伝レース前後で選手の血液検査結果を報告させるなどの対策案を打ち出した。一方、個人情報の取り扱いなど法的問題も残り、ある高校の監督は不適切な鉄剤注射の根絶に理解を示しつつ「検査結果の提出は現実的ではない」と日本陸連の判断を疑問視する。

 金沢医科大の川端浩教授(血液免疫内科学)は「鉄欠乏でない人に鉄剤を注射しても運動能力の向上は理論的には期待できない」と強調。「治療上、必要な人まで鉄剤注射を受けられなくなる事態は避けるべき。監督の依頼に応じて、注射している病院があるとすれば医師の倫理的問題だ」と指摘する。

 長距離の元実業団選手でもある龍大の河合美香准教授(スポーツ栄養学)は、選手や指導者に呼びかける。「スポーツは体を害してまでやるものではない。食事と休養をうまく取り、正しい知識を備えてほしい」

【 2019年01月09日 16時21分 】

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