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「身の不自由」の関係性 「なぜオフィスでラブなのか」西口想著

「なぜオフィスでラブなのか」西口想著
「なぜオフィスでラブなのか」西口想著

 【書評・本屋と一冊 京都文芸同盟】〈人文書院 浦田千紘 「なぜオフィスでラブなのか」西口想著/堀之内出版 1944円〉

 昨年、映画女優カトリーヌ・ドヌーブを含むフランスの女性たちが連名で「#MeToo」運動への批判を発表した。「男性にもうるさく言い寄る権利はある」という主張にすぐさま賛否両論が巻き起こる。彼女たちが何を擁護しようとしたのか一瞬わからず、戸惑いを覚えた。

 そんなニュースを思い返しながら読み進めたこの本は、吉本ばななや津村記久子らの小説を読み解き、日本のオフィスラブについて、手のひらで転がすようにあらゆる角度から眺めていく。職場恋愛は不倫やセクハラの温床となると何度も断りながら、一方で人間同士のつながりが生まれる面にも目を向ける。その揺れ動きが暖かく響いた。

 特に津島佑子の章で語られる「身の不自由」が印象深い。シングルマザーの主人公は同僚にも病気の子どもがいると知り、「普通とは違う」ことにつながりを覚える。大なり小なり誰もが抱える「他人が簡単に語ることは許されないような、個人にとって深く絶望的な不自由」を核にして他人の輪郭を認識することは、その人と独自の距離で関係性を築く一歩となる。

 先の意見書で非難を浴びた後ドヌーブは今度は個人の名前で書簡を発表する。そこには意見書で傷を深めた被害女性たちへの謝罪と、「自由を愛する」という言葉があった。17歳から仕事をして数々の「不自由」を経験したであろう彼女が発した「自由」の意味を、本書とともに噛(か)みしめたい。

【 2019年04月10日 14時04分 】

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