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医療的ケア児「充実した学校生活送らせたい」 親の願い

リラックスした様子の創志くん(右)と会話しながら、胃ろうを通じて水分を注入する金野大さん(左)=京都市北区の自宅
リラックスした様子の創志くん(右)と会話しながら、胃ろうを通じて水分を注入する金野大さん(左)=京都市北区の自宅

 人工呼吸器やたんの吸引、チューブなどで胃に直接栄養分を入れる胃ろうなどを日常的に必要とする医療的ケア児と、その保護者が置かれている現状に関心を寄せてほしい―。京都市内の親たちが設立した医療的ケア児の家族会「KICK(キック)」から、京都新聞社の双方向型報道「読者に応える」に依頼が届いた。医療的ケア児の支援態勢は全国的にも整備途上で、同会は子どもの学校生活の充実や家族の負担軽減を目指して活動している。 医療的ケア児と家族は、どんな日常を送っているのだろうか。「KICK」会長の金野大(ひろし)さん(36)=京都市北区=宅を訪れ、長男創志くん(8)との暮らしを取材した。

■きめ細かいケア欠かせず

 「お外へ行きたい」「雨がやんだら行こうね」。ある休日の午前、ニコニコと笑いながら何気ない会話を交わす親子。大さんは時計に目をやると、胃ろうを通じ、栄養剤を慣れた様子で注入し始めた。

 創志くんの食事は1日に4回。味わうことはできないが、家族と同じメニューもミキサーにかけて摂取するという。1日2回の水分注入、5回の導尿、たんの吸引、人工呼吸器…。毎日のきめ細かなケアが、生きていく上で欠かせない。

 創志くんは「二分脊椎」という先天性の病気により、背骨が折れて背中から露出している状態で生まれた。病気が判明したのは、母沙織さん(35)が臨月に受けた妊婦健診。帝王切開で産まれてすぐさま背中を閉鎖し、その後も気管切開や胃ろう造設など計7回の手術を受けてきた。

 NICU(新生児集中治療室)を退院し自宅でケアを始めた頃、家族の生活は壮絶だった。たんの吸引やおう吐への対応が24時間必要で、両親の睡眠時間は毎日2時間ほど。ミルクが肺に入って何度も肺炎になり、風邪をひけば張り付きでたん吸引を続けた。

 沙織さんは「常に緊張感があり、寝ていても呼吸音に耳を澄ましている状態。自分でしんどいと気付かないくらい、しんどかった」と振り返る。病院の一時預かりを頼ってもみたが、初めて父子で1泊した日に「ここまで手がかかる子は預かれない」と断られた。

 手術や入退院を繰り返し、症状が落ち着いたのは3歳ごろ。現在は下半身が動かないため車いすで生活を送るほか、知的な発達の遅れもある。市内の支援学校に進学してからは、先生と話したり、勉強したりするのが大好きになった。だからこそ、制約がある中でも充実した学校生活を送れるよう「可能性を広げてあげたい」というのが、両親の切なる願いだ。

 地域の催しにも家族で積極的に参加し、地元の子どもたちと触れ合う。「医療的ケアというと構えたり、怖がったりする人もいるけれど、胃ろうやチューブは生きるための行為を体の代わりにやってくれるもの。構えずに見守ってもらえたら」と、大さんと沙織さんは声をそろえて話した。

■通学者数増も送迎など課題も

 京都市内では現在、市立総合支援学校に71人、地域の小学校に6人(うち2人は普通学級)の医療的ケア児が通う。児童・生徒数は増加が続いており、一人一人に必要なケアの総数である行為件数は、15年前の4倍超の283件(2018年)まで増えた=グラフ参照。

 背景にあるのは医療技術の発達だ。これまでは訪問教育しか選択できなかった重い症状の子どもも、新たな医療機器やケアの手法により、通学が可能になってきたという。市教育委員会は「学校現場における医療的ケアの重度・重複化や、多様化は全国的傾向。高度な医療行為や多様なニーズに応える態勢づくりが求められている」と指摘する。

 近年は地域の学校に通わせたいと望む医療的ケア児の保護者も増えた。市では08年から小学校での受け入れを始め、昨年から人工呼吸器を着けた子どもの通学も初めて実現。今年4月からは、市立幼稚園に初めて医療的ケア児が通い始めるなど、間口は徐々に広がりつつある。

 一方で、支援学校や小学校で医療的ケアを行う人員や設備にはまだまだ課題も多い。保護者の送迎負担について、市教委は「スクールバスは医療的ケア児の乗車を想定した構造にはなっていないため、車内で安全にたんの吸引ができず、人員の手当ても難しい」と説明。家族負担をできる限り軽減したいとしつつ、「看護師や教員が職務としてケアを行う以上は危険を最大限避けなければならず、保護者が対応するよりもハードルが高くなってしまう」と、難しさを吐露する。

 今後、地域の学校に通う医療的ケア児はさらに増加していく見通しで、看護師の確保や教員の研修が必須かつ急務となる。市教委は「整理すべき課題は多く、設備の整備などでは国への要望も必要になってくる。どうすれば一人一人に合った教育ができるか、保護者と共に考えていきたい」としている。 

【 2019年06月25日 10時40分 】

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  • リラックスした様子の創志くん(右)と会話しながら、胃ろうを通じて水分を注入する金野大さん(左)=京都市北区の自宅
  • 医療的ケアが必要な児童生徒の推移
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