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通勤でも公的介助が使えない 重度訪問介護の矛盾

ヘルパーと一緒に電車で通勤するライスチョウ・ノアさん(京都市)
ヘルパーと一緒に電車で通勤するライスチョウ・ノアさん(京都市)

 朝の駅ホームを足早に行き交う人々。到着する列車のアナウンス。京都市営地下鉄今出川駅(京都市上京区)から乗って、竹田駅ホームで乗り換えの近鉄電車を待つ。電動車いすの米国籍のライスチョウ・ノアさん(24)=上京区=のそばで、ノアさんの介助を約4年間続けているヘルパーが見守る。ノアさんは進行性の難病患者で人工呼吸器を装着し、30分に1回程度、たん吸引が必要だ。ノアさんの通勤時間は約40分。

 「重度訪問介護」という公費のヘルパー派遣制度が、ノアさんの暮らしを支えてきた。一日24時間、身体介助から生活支援、外出支援、就寝時の見守りなど柔軟にヘルパーが支える制度。しかし夢だった就職を果たした今年、壁に突き当たった。重度訪問介護の規定では、「通勤・経済活動にかかる支援」は雇用主が負担すべきとされ、公的補助の対象外だ。

 通勤時のヘルパー費をどうすればいいのか、雇用した社会福祉法人は負担の重さにうめく。ノアさんは「休みの日も仕事の日も、わたしの医療的ケアに慣れたヘルパーが必要」と訴える。

 ノアさんが直面している、重度訪問介護の「就労の壁」。重度障害者が働くと、その時間は公的な介護保障が打ち切られる制度の矛盾。人工呼吸器を装着した重度障害のある参院議員が誕生したことで、重度訪問介護制度の規定は、1日開会の国会も揺さぶっている。

 ノアさんと法人の相談を受けて、京都市はさいたま市などとともに昨年度、国にノアさんの事例を地方分権改革に関する提案募集で、こう要望した。「重度訪問介護の提供場所から就業先や通勤中が除かれているのは合理的でない」

 しかし、厚生労働省は応じる姿勢を見せていない。さらに、障害者雇用を助成する仕組みにも、問題があることが分かった。

 同志社大に在学中、社会福祉を学んでいたノアさんは医療機関でソーシャルワーカーとして働く未来を思い描いていた。難病患者で重度障害があるが、病院などに就職活動をした。現行制度で就労中に重度訪問介護(重訪)が使えないことをノアさんは知っていた。周囲にも相談したが解決策が見えない。「ひたすら『重訪の就労の壁』が就職活動先にばれないよう、話題に出さずに面接を受けていました。採用されてからどうにかすればいいと、甘く淡い期待を抱きながら」

 何度も就活で落ちた。それでも学生時代の実習先だった伏見区の社会福祉法人がノアさんを採用。社会福祉士の資格を取り、今は相談員として働く。

 重度訪問介護が就労時に使えないと、体調を崩すなどして会社を休んだ時に、家で介助するヘルパーを急きょどう確保するか、という問題も生じる。就労時も働かない時も、同じ仕組みで介護保障しないと生活実態に合わないという障害者の声は切実だ。

 勤務中や通勤時に、重度訪問介護の制度が使えないことが、雇った法人側に重くのしかかる。ノアさんが通勤し働いている時間帯のヘルパー費用を、今の制度では法人側が負担しなくてはならない。

 法人側はノアさんと一緒に、京都市に相談する一方、障害者雇用給付金制度に基づく助成金を申請しようと、独立行政法人高齢・障害・求職者支援機構京都府支部(長岡京市)を訪れた。しかし、重度障害者を雇用する事業者向けの「通勤援助者の委嘱助成金」は、支給期間が1カ月のみだと知らされた。

 同機構によると、全国で「通勤援助者の委嘱助成金」を利用した人は2017年度でゼロ。18年度もゼロだった。同機構は「視覚障害がある人が通勤経路を覚えるまでを想定した制度で、利用したいとの相談はあるが実績はないのが現状」という。

 厚生労働省は昨年、京都市やさいたま市の重度訪問介護を就労時や通勤時も使えるように緩和すべきとの提案に対し、「障害者の就労により恩恵を受ける企業自身が支援を行うべきという考え方がある」とし、制度を見直す姿勢を示していない。

 ノアさんはこう話す。「重度訪問介護は、重い障害があっても地域で暮らせるようにする制度。誤嚥(ごえん)のリスク、たん吸引や人工呼吸器など生命維持に直結する医療的ケアもあるので、日頃から私の介助に十分な経験があるヘルパーさんに、就業中も介助してもらう必要がある。同じような境遇の人たちのために、声を上げていきたい」

 障害福祉サービスの「重度訪問介護」の利用を就労中も認めてほしいとの声が参議院でも上がるが、それ以前からライスチョウ・ノアさんの切実な願いを受けて、京都市は対応に苦慮してきた。京都市やさいたま市など全国の20政令指定都市と東京都は7月、厚生労働省に制度の緩和を求める要望書を初めて提出した。

 要望書では、障害者の就労を阻む要因の一つとして、就労中は重度訪問介護の利用が認められていない点を指摘。「企業が果たす責任にも限界がある」としている。

 重度訪問介護を利用している障害者は京都市内に約320人、大津市内に約30人。京都市障害保健福祉推進室は「財政的に厳しいので国の負担なしに市独自で支援策を実施するのは難しい。まずは国が考え方を示してほしい」としている。

【 2019年08月01日 08時30分 】

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