―磁気スキルミオンを利用した大容量メモリ開発へ道筋―

令和3年4月16日
国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学

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磁気スキルミオンの特性識別に成功 ―磁気スキルミオンを利用した大容量メモリ開発へ道筋―

【ポイント】
 * 磁気スキルミオンの特性を電気的方法により識別することに初めて成功した。
 * 分岐したトラックを利用することで容易に特性の識別が可能である。
 * 磁気スキルミオンを利用した大容量メモリ開発へ道筋を開いた。
 
【発表概要】
 磁気スキルミオン[注1]は、磁性薄膜材料に現れる磁気渦構造であり、キラルな構造をもつ特徴があります(図1参照)。そのサイズは数ナノメートルと小さく、磁性薄膜内での安定性が高く、また動作に必要な電力が小さいことから、省電力の性能をもつ次世代磁気メモリの情報キャリアとしての応用が期待されています。電気通信大学大学院情報理工学研究科の仲谷栄伸 教授、英国ヨーク大学電子工学科の廣畑貴文 教授、岐阜大学工学部の山田啓介 助教の研究グループは、電流による磁性薄膜中の磁化に働く力である「スピン軌道トルク」[注2](以下SOTと略す)と「スピントランスファートルク」[注3](以下STTと略す)の組み合わせによって、磁性薄膜上に存在する磁気スキルミオンの特性であるカイラリティ(図1参照)を電気的方法で識別する手法を提案し、シミュレーションによってカイラリティの識別が可能であることを世界に先駆けて実証しました。この成果により、磁気スキルミオンのカイラリティを用いて情報を表すことが可能になるため、磁気スキルミオンを利用した磁気メモリの大容量化へ道筋を開きました。
 なお、この技術の詳細は2021年4月16日(金)10時(英国時間)にScientific Reports(Nature Publishing Group)に掲載されました。
 
【研究の背景・先行研究における問題点】
 次世代の情報記録デバイス実現を目指すスピントロニクス[注4]分野では、次世代磁気メモリの情報キャリアの候補として磁気スキルミオンが注目され、研究開発が盛んに行われています。磁気スキルミオンを磁性薄膜中で情報キャリアとして利用するためには、磁性薄膜をナノワイヤー状に微小に加工し(以下トラックと呼ぶ)、磁気スキルミオンをトラック上で消滅・生成・移動させる必要があります。今までの研究では、トラック上の磁気スキルミオンの有無で情報を表す方式が多く報告されていました。この方法では、情報読み取りの際、トラック上で生成した磁気スキルミオンを電気的手法により移動させ、読み取り位置で磁気スキルミオンの有無を調べていました。
 磁気スキルミオンは、渦状の磁化構造をもちます(図1参照)。この磁気渦構造では、渦の巻き方向「カイラリティ」(左巻き/右巻き)が存在するため、巻き方向による自由度を持ちます。この自由度を情報として利用することができれば、磁気スキルミオンの存在の有無と合わせて、一つの磁気スキルミオンで複数の情報を表すことができます。このことは、磁気スキルミオンを用いた磁気メモリの大容量化につながるため、カイラリティの制御方法や識別方法の開発が求められていました。
 本研究グループは以前に、磁気スキルミオンに熱パルスを照射することで、磁気スキルミオンのカイラリティを切り替えることができる技術を示しました(図2参照)。この研究では、磁気スキルミオンのカイラリティを切り替えることができる熱パルスの照射時間や照射面積の条件を調べ、カイラリティの切り替え時に起こる磁化のダイナミクスを明らかにしました。このように磁気スキルミオンのカイラリティを制御する方法は提示できていましたが、カイラリティを識別する方法は不明であり、研究課題となっていました。

【研究内容と成果】
 本研究では、マイクロマグネティック・シミュレーション[注5]を用いて、電流(STT)による磁気スキルミオン移動の大規模シミュレーションを行い、磁気スキルミオンのカイラリティの識別方法について調べました。図3に示すように、磁性薄膜から成るカイラリティ識別のためのトラックは、分岐を有する構造になっており、分岐領域にSOTが働く素子構造を考えました。電流をトラックに印加すると、磁気スキルミオンはトラック上を移動します。磁気スキルミオンが分岐領域に到達すると、SOTと磁気スキルミオンのカイラリティによって、磁気スキルミオンの移動方向が変わることがわかりました(図4参照)。このことは、SOTとSTTの組み合わせによって磁気スキルミオンのカイラリティを識別する電気的手法が実証できたことを示しています。また、磁気スキルミオンが識別できる分岐の角度や、移動に必要な電流パルスの大きさを細かく調べ、磁気スキルミオンの識別がこれまでに報告されている磁性薄膜で実現可能であることを示すことができました。

【本研究の意義・今後の展望】
 本研究では、磁気スキルミオンのカイラリティを電気的手法により識別可能であることを示しました。この成果は、磁気スキルミオンのカイラリティを新たに情報として使用することが可能であることを示したため、磁気メモリの大容量化につながる成果です。加えて、磁気スキルミオンを利用する記憶・演算素子における情報キャリア、またはニューロモーフィックコンピューティング[注6]のシナプスへの利用など、省エネルギー・高密度・超小型化の次世代情報記録デバイスの創出に貢献できる技術を提示できました。

(発表者)
仲谷 栄伸 (電気通信大学大学院情報理工学研究科 教授)
廣畑 貴文 (英国ヨーク大学電子工学科 教授)
山田 啓介 (岐阜大学工学部化学・生命工学科 助教)

(論文情報)
雑誌名:「Scientific Reports」
論文タイトル:Discrimination of skyrmion chirality via spin-orbit and -transfer torques for logic operation
著者:Yoshinobu Nakatani, Keisuke Yamada, and Atsufumi Hirohata
DOI番号:10.1038/s41598-021-87742-6

(用語説明)
[1]磁気スキルミオン:英国人物理学者トニー・スキーム(Tony Skyrme)によって理論的に予測された準粒子のことを指します。磁気スキルミオンは渦状の磁化構造を有しており、そのサイズは数ナノメートル程度と非常に小さいです。磁気スキルミオンは、その渦構造の磁化の方向や巻き方によって様々なタイプに分類できます。

[2]スピン軌道トルク:電子の軌道角運動量と電子のスピンとの相互作用であるスピン軌道相互作用により誘起されたトルク(回転力)です。
 
[3]スピントランスファートルク:強磁性体に電流を流すと、電荷とともに電子のスピンが流れます。流れ込んだスピンから強磁性体のスピンへスピン角運動量が受け渡され、回転力(トルク)が生じることから、電流によって強磁性体の磁化を制御できる技術です。

[4]スピントロニクス:電子の持つスピンの自由度を利用することで、従来のエレクトロニクスに無い新機能・高性能素子の実現を目指す研究開発分野です。

[5]マイクロマグネティック・シミュレーション:磁石内の磁化構造を調べる数値計算法(コンピュータシミュレーション)です。磁石を複数の磁気モーメントで表し、これらの磁気モーメントによって作られる磁化構造やその動的変化を調べる方法です。

[6]ニューロモーフィックコンピューティング:1980年代後半に米国人計算機科学者カーバー・ミード(Carver Mead)によって提唱された概念であり、脳機能の働きに類似した数理モデルです。

 

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図1:磁気スキルミオンの磁化構造
磁気スキルミオンを構成する磁化の向きを示しています。磁化の向きは直径に沿って傾いており、磁化が直径方向で2π分変化した磁気スキルミオンです。この磁気スキルミオンは、ブロッホ型と呼ばれます。渦状の磁化構造を有しており、磁気渦の巻き方向(カイラリティ)は、(a)左巻き、(b)右巻きです。

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図2:熱パルスによるカイラリティ制御方法の概念図
熱パルスを磁気スキルミオンに局所的に照射することで、カイラリティを切り替えることができる技術を示しています。(Yoshinobu Nakatani, Keisuke Yamada, and Atsufumi Hirohata, Scientific Reports, DOI: 10.1038/s41598-019-49875-7)

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図3:提案したデバイス概念図
トラックの左端にある磁気スキルミオンをSTTによりトラック分岐領域まで移動させます。分岐領域のSOTにより右巻きと左巻きのカイラリティをもつ磁気スキルミオンを識別できるデバイス構想です。

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図4:シミュレーション結果
(a) 左巻きのカイラリティの磁気スキルミオン、(b) 右巻きのカイラリティの磁気スキルミオンは、それぞれSOTとSTTの効果により分岐先が変化するため、トラックの分岐領域でカイラリティが識別できる結果を示しています(赤線)。緑点線の結果は、STTだけでは分岐先が変化しないために、左巻きと右巻きカイラリティの磁気スキルミオンが識別できない結果を示しています。