連載コラム「ロームシアター京都 幕が上がる、その前に」ではロームシアター自主事業の中から、スタッフによるイチオシ作品をご紹介します。

 

ロームシアター京都が2021年から始めた、ジャンルや固定観念にとらわれない「音楽」を軸とした表現活動を行うアーティストによるパフォーマンスを紹介するシリーズである「Sound Around」。
第6弾となる今回は、京都を拠点に活動し電子音響、パフォーミングアーツ、現代美術、伝統工芸など幅広い領域を横断して作品を制作している武田真彦による上演です。公演のテーマは『Weavings|おること』。西陣織を継ぐことができなかった武田氏の家業の歴史を背景に、「織る」行為を再定義していきます。
コラボレーターには、芦田かんな[ヴィブラフォン・打楽器奏者]、井原季子[鳳笙(ほうしょう)奏者]、上田聖子[キュレーター]、沙里[調香師]、中山福太朗[茶人]と多様なジャンルのアーティストを招きます。彼らとともに音・声・香・身体・配置といった要素を「織る」ことによって、断片的な素材がつながり、連続性や関係性が立ち上がるそのプロセスそのものを舞台上に表現していきます。

ⓒTomoko Hayashi (atelier now/here)

出演者の1人である井原氏が奈良県明日香村に在住ということで、2026年1月、クリエーションのヒントを求め、出演メンバーで明日香村を訪れました。明日香村には石舞台古墳や亀形石造物、益田岩船、酒船石遺跡などたくさんの石造物がありますが、その中には誰が何の目的で作ったのか分からないものも数多くあります。私たちはそれらの巨大な石、それを取り囲む竹林のさえずり、そしてそれらを一つに調和させる笙(しょう)の響きの中に身を置きました。その圧倒的な調和を前にしたとき、武田氏はただただ言葉を失い自然と歴史が積み上げてきたものへの深い敬意と、ある種の「羨望(せんぼう)」を覚えたと言います。

石舞台古墳
益田岩船
 

およそ1400年前に都が置かれた古都・奈良。そこで人間が育んだ文化の一片が、時代を超え現代(いま)もそこに鎮座していました。それに対面したとき、私はその長い長い歴史と大自然のもつ内なるパワーに畏敬の念を抱き、何にも代えがたい特別な感覚に襲われました。

 

その圧倒的な美しさや威力は、どんなに精緻に作りこんだとしても人間がつくり出せるものではありません。あの場所にある「本物」を超えることは決してできない。しかし、本作で目指すべきものは、自然の完全さを再現することではなく、その圧倒的な存在に対して、現代に生きる我々がどう向き合い、どのような「補助線」を引けるのかを明らかにすること。それは、完成された美を提示するのではなく、出来事が織り上がっていくための「余白」を舞台に用意する行為です。
「織る」とは、単に組み合わせるという行為ではありません。それは、断片をつなぎ、連続性を編み出す行為であり、同時に欠落や断絶を内包しながら新たな関係を立ち上げるプロセスでもあります。茶の湯における「配置」という美学、雅楽に音楽の時間構造、ジョン・ケージやエリック・サティに通じる非中心的な作曲観やその手法に学びながら、明日香村での体験で得た「本物には勝てない」という確信を礎に、それでもなお私たちが「おること(Weavings)」で生まれる新しい表現を模索していきます。

執筆:成瀬はつみ(ロームシアター京都)

 

Sound Around 006『Weavings|おること』
日時:6月13日(土)午後7時開演
   6月14日(日)午後4時開演
会場:ロームシアター京都 ノースホール
料金:一般 2500円ほか
公演の詳細はロームシアター京都公式ホームページにてご確認下さい。


問い合わせ|ロームシアター京都 TEL=075-771-6051
HP=https://rohmtheatrekyoto.jp/