連載コラム「ロームシアター京都 幕が上がる、その前に」ではロームシアター京都自主事業の中から、スタッフによるイチオシ作品をご紹介しています。
今回は、ロームシアター京都と京都市交響楽団が主催する事業の紹介として、京都市交響楽団のスタッフによるコラムをお届けします。
この夏、ロームシアター京都10周年と京都市交響楽団創立70周年をことほぎ、オルフ《カルミナ・ブラーナ》を演奏します。
サブタイトルには【〜文化芸術都市「京都」だからこそ実現できる芸術の創造〜】とあるように、京都市交響楽団、京都市立芸術大学、京都市立京都堀川音楽高等学校、京都市少年合唱団、京響コーラスが集う、まさに「オール京都」で臨む舞台です。
今年70周年を迎える京都市交響楽団は、市民の情操を高めること、そして世界に誇る「京都の新しい文化財」となることを目指し、1956年に創立しました。歴史文化の豊かな都市に、新しい文化財としてのオーケストラを生み出すことは、「古いもの」と「新しいもの」、「市民の暮らし」と「世界へ開かれた芸術」を結び合わせる試みでもありました。
そして今回の会場であり、リニューアルから10周年を迎えるロームシアター京都もまた、京都の文化の記憶を受け継ぎながら、新しい時代へと開かれてきた場所です。1960年に「文化の殿堂」として誕生し愛された「京都会館」が、2016年、ロームシアター京都として新たにリニューアルし、伝統芸能から、オペラやオーケストラ、そして演劇、ダンス、バレエまで多様な舞台芸術を受け止める場へと生まれ変わりました。
作曲家の武満徹は、「交響的三部作《京都》」シリーズの《夢窓》を作曲した際のプログラムノートに、京都という土地柄について、「進取の機運と頑なな保守性が共存している」、「静けさの底に、変化の歯車が休むことなく動いている」とつづり、このような「相反するものの超克」を《夢窓》という音世界に描きました。
古いものと新しいもの。静けさと変化。聖と俗。
今回演奏する《カルミナ・ブラーナ》もまた、このような相反するもののダイナミズムが感じられる作品です。
タイトルにある《カルミナ・ブラーナ》は、南ドイツ・バイエルン地方のベネディクトボイレン修道院で発見された中世の詩歌集に由来します。そこに収められた詩には、信仰だけでなく、恋愛、欲望、酒、風刺、遊戯が入り混じっています。神に祈ることと、地上にしがみつくこと。聖なるものと、俗なるもの。それらは互いに矛盾するようでありながら、人間の中では切り離すことのできないものとして共存しています。人は運命に翻弄(ほんろう)されながらも、春に心を騒がせ、酒場で笑い、恋に身を焦がし、時に愚かさをさらします。けれども、その弱さや滑稽さの中にこそ、生きていることの切実な輝きがあります。《カルミナ・ブラーナ》は、これらを丸ごと抱え込み、強靭(きょうじん)なリズムと巨大な合唱によって、ひとつの生命の讃歌へと変えていく作品なのです。
音楽の構造に注目すると、冒頭と終曲に置かれた「おお、運命の女神よ」によって、大きな円環構造が形づくられています。冒頭、運命の車輪が回り始め、最後に再びその車輪へと戻っていく。音楽は人間の生の断片を次々と巡りますが、そのすべては運命の女神・フォルトゥナの手のひらの上にあり、上にいた者は下へ落ち、下にいた者は上へ押し上げられる。幸福も若さも栄光も、決して一つの場所にとどまり続けることはありません。そこには不安があり、滑稽さがあり、欲望があり、祈りがある。相反するものがぶつかり合い、溶け合い、やがてひとつの大きな音楽として立ち上がります。その力こそが、《カルミナ・ブラーナ》の圧倒的な魅力です。
そして今回、未来の音楽の担い手である京都市少年合唱団、京都市立京都堀川音楽高等学校、京都市立芸術大学、市民の歌声である京響コーラス、70年にわたり京都の音楽文化を支えてきた京響が、10周年を迎えるロームシアター京都の舞台に集い、京都市交響楽団首席客演指揮者のヤン・ヴィレム・デ・フリーントのタクトの下に、この巨大な音楽を奏でます。ここに、文化芸術都市・京都が長年紡いできた音楽文化の現在形があります。
執筆:田渕洋二郎(京都市交響楽団 営業・マーケティング係長)
ロームシアター京都10周年&京都市交響楽団創立70周年 共同プロジェクト
Project A「オルフ:カルミナ・ブラーナ」
~文化芸術都市「京都」だからこそ実現できる芸術の創造~
日時:8月23日(日)午後2時開演
会場:ロームシアター京都 メインホール
料金:S席 6000円、A席 5500円、B席 4500円、C席 3500円 ほか
公演の詳細は京都市交響楽団公式ホームページにてご確認下さい。