「京都シネマSTAFFの今月のオススメ」では、京都シネマで公開される毎月の上映作の中から、
京都シネマスタッフによる一押し作品をご紹介します。
4月のオススメはこちら!

 
 

北ドイツの農場、4つの時代、4人の少女。百年にわたる怪奇譚。
2025年・第78回カンヌ国際映画祭で、長編2作目ながらコンペティション部門入りを果たし、この年のカンヌの“ダークホース”として注目を浴びたマーシャ・シリンスキ監督『落下音』が公開します。
1910年代のアルマ、40年代のエリカ、80年代のアンゲリカ、そして現代のレンカ。
本作は、4つの異なる時代に生きる4人の少女たちが、同じ土地で体験する不可解な出来事を描く、百年にわたる映像叙事詩です。
ホラー映画のような筋書きですが、ホラー映画にある(苦手なひとはとびっきり苦手な)ジャンプ・スケア的な表現はなく、あからさまに怖い造形の幽霊なんかも出てこないので、ホラーが苦手な人でも安心してください。
この映画が描くのは、少女たちが経験する<不安>という感情そのものなのです。

1910年代、たくさんの姉妹兄弟に囲まれた7歳のアルマは、ある日、自分と同じ名前の姉が早くに亡くなっていたことを知ります。
彼女は、死んだ”アルマ”と自分の輪郭を比べ、死と生の見分け方に戸惑います。
1940年代、片脚を失った叔父へひそかに欲望を募らせるエリカは、自らの得体のしれない影に怯えているようです。
1980年代、アンジェリカは自分の身体にまとわりつく視線を感じながら、男たちの視線を内面化していきつつも、そんな自分に嫌悪感を募らせます。
そして現代、ベルリンから寂れた農場に移り住んだレンカは、自分を飲み込もうとする何かに怯え、その<恐怖>に抗う言葉を知りません…。

時代は入り乱れ、映画はイメージからイメージへ互いに反響しながら結びついていきます。
“幽霊が見た100年”のような映像のなかで、少女たちが抱く<不安>の現れ方、そして幽霊に見せた抵抗の痕跡は彼女たちそれぞれで異なります。
きっと言葉にした瞬間、彼女たちを繋ぐ痛みの正体はまったく別のものへと変わってしまい、もし彼女たちが同じ言葉でその痛みを語る機会があったとしてもきっと分かり合えないものになってしまうでしょう。
それだけ、それぞれの生きた痕跡が強固に存在し、歪な形でさまざまな<不安>を引き受けていることが描かれるのです。
このノンリニアな構成は、一度観ただけでは混乱してしまうかもしれませんが、いまこの世界に存在している言葉に置き換えてしまうと散り散りになってしまう、けれども確実に彼女たちを苦しめてきたものの根源を、自由自在な映画言語で繋ぎ止めるための方法になっています。
すっかり暖かくなった春の陽気に包まれて、複雑なのに圧倒される一本を鑑賞してみるのはいかがでしょうか。

執筆:川添結生(京都シネマ)


 

4月3日(金)公開
落下音

(原題)Sound of Falling
PG12/2025/独155分
監督:マーシャ・シリンスキ
出演:ハンナ・ヘクト、レア・ドリンダ、レーナ・ウルツェンドフスキー、レーニ・ガイゼラー
©Fabian Gamper – Studio Zentral

【上映スケジュール】
上映時間などの詳細は京都シネマ公式ホームページにてご確認下さい。

京都シネマは、四条烏丸にある複合商業施設「COCON烏丸」の3階にあるミニシアターです。
日本をはじめ欧米、アジアなど世界各国の良質な映画を3スクリーンで上映しています。

問い合わせ|京都シネマ TEL=075-353-4723
HP=https://www.kyotocinema.jp/